「イルカ、って中忍 …知ってるか?」

「…ああ」

勿論、と頷きそうになるのを無理に抑え、俺は応えた。






敵の数もその腕も、左目を使うまでもなかった今夜の任務は

上忍が二人でこなすにしては、物足りないほどだったと言ってもいい。

俺より確か七つかそこら年嵩といったか

この男の腕が良かったこともあるが。

無造作に、男らしさだけを念頭に置いて作り上げたような

けして美丈夫などではないが人好きのする面立ち。

任務を「シゴト」と呼び、日頃は町の暮らしに溶け込んで 牙の先さえ覗かせない、どこか昔気質な彼を

俺は嫌いではなかった。






中天の月を雲が覆い

淡く虹色に輪を作る。

忍び日和、ってやつか

間もなく里の門も見えてくる、この辺りまでくれば

後はさほど急ぐ必要もなく、ポツリと始まったその話に付き合うことにした。

なんと言ってもその内容が(俺の)イルカ先生についてなんだから。





「あいつぁ…あのイルカってのはなかなか使えるな」

「…ふ〜ん…?」


どうとも取れる言葉に、これまた曖昧に返して

『事と次第によっちゃ、こいつを締めねばなるまいね』

と、少しばかり不穏な事を考える。


「もう、三年ほどになるか…」


昔話をする者特有の、柔らかいが人を立ち入らせない笑みを浮かべて

男が言葉を継いだ。










辺境の国の小競り合いで、男は一隊を率いて出向いたという。

その中にイルカ先生がいた、と。



相手方がさきがけにと狙う村に入って一般人に成りすまし、討ち果たす

という 言ってみればよくある作戦が成功し、それをきっかけに

問題は瞬く間に解決したらしい。



それにあたり、男の補佐として

村の重鎮達と話をつけ、たいした騒動もなく民を避難させたのが

イルカ先生だったというのだ。

「手際のいい奴だったぜ。 打てば響くってんだな、ああいうのを

俺の思うように事を運んで、…その上村人からも受けがいいんだ

闘わせてもなかなかの腕でな。

…そりゃお前みたいな鮮やかさはねぇが(男はここで少し笑った)、着実に仕留めていきやがる」



イルカ先生の闘う姿を、俺は見た事がない。

けれどその仕事ぶりが、男の話で目に浮かぶ。

好ましいだろう、その姿は。

俺の知らないイルカ先生を語る彼にかすかに嫉妬しながらも

続きを促した。



「それで、だ。事が済んで、引き上げようとすると

あいつが見あたらねえ」

男がまた く、く、と笑う。

「何?変な笑い方して」

「ああ、悪ぃ!……どうしたのかと思ったらよ、イルカの奴

障子、張り替えてやがるんだ」

「…障子?」

「そうなんだよ、民家の障子をよ。…あっけなかったとはいえ村でやりあったんだ、

障子の一つや二つ、破れらぁな」



あれだけのシゴトをする中忍が、下忍の初仕事みたいに

真面目くさって障子張り。

火は真っ先に防いだし、村は無事なんだ

何も俺たちがそこまでしてやる義理もねぇだろ

そう語る男に、口布の下で苦笑して

あの人らしい情のあり方だと頷いた。



「でもな、俺が呆れて声をかけると、にぃっと恥ずかしそうに顔くしゃくしゃにして

『借りた村、元通り返したいと思いましてね』

…まあその様子がだ!でかいなりしてるくせに、何とも可愛い顔で笑いやがるんだよ」




……この男、やっぱり、締めた方がいいか?




ひくりと動く瞼を男に向けるべきかと考える俺のうえに、

一段低い声が落ちてきた。



「…思うんだがな。上忍になる器があるように、

中忍にも器ってのがあるんだよ

闇雲に上を目指すのが端から悪いとはいわねぇが、

使われる事に長けた…上官の手足として動けるやつ

それで諫言も出来るならいう事なしだ

そりゃぁ今日みてぇに、上忍同士で組んでうまくいくシゴトもあるが

人数を動かすとなるとそんな、…いい部下がいなくちゃはじまらねぇ」



…ああ、この男こそ上忍だ

感嘆を込めてその顔を見遣る。



「イルカ、な。ちと情に脆くて頑固者じゃあるが、

…またあいつと組んでみてぇなあ」









イルカ先生、イルカ先生

いつだって俺はあなたを認めてるつもりだけど、

今日ほど、今夜ほどあなたを誇らしいと思ったことはない



大好きな、イルカ先生

早く会って、抱きしめよう。

俺もいつかあなたに、こんなふうに

誇らしく思ってもらえる、そんな上忍になれたら。













雲の切れ間から 西に傾いた月明かりがさすころ、

俺達は里の門にたどり着いた。





「なぁ、あんた …今度一杯やらないか?俺の奢りで」

「あぁ?どうしたよカカシ お前の奢りだ?こえぇこえぇ!」









<終>

























皆が皆上忍になろうとしても
何も上手くはいかないわけで、
イルカ好きとしてはここはひとつ、
中忍のなかの中忍というのもかっこいいんじゃないの、と叫んでみようかと
発奮した次第。
いや、どうにもこうにも。

マンガにしづらかったので、拙い文で はじさらし。



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